冬の終わり。
廃墟に住む女(加藤めぐみ)が、街へ繰り出し、
ゴミを集めている。
女には名前が無かった。少なくとも、誰も女を呼ばなかった。
ゴミを拾っては部屋の隙間を埋めるだけの日々。
かつて誰かのモノだったゴミに、女は温もりを求めていた。
しかし、この冬は寒すぎたので、女はたまに、
ゴミを燃やして焚き火をした。
女は手紙を待っていた。
ポストを開く瞬間だけ、女の瞳が生気を帯びる。
それが希望という日課だった。
そして、その目がすぐに曇るのは、絶望という日課だった。
ポストが悪いのではないか、と心の中で悪あがき。
ある日、ゴミの中に、真っ赤なランドセルを見つけた。
その鮮やかな色と、取り付けられた鈴の音色に心を魅かれた女は、
ランドセルをポストにすることを思いついた。
女が寝静まったとき、闇の中で鈴の音が響いた。
手紙が、届いた。
これから女は二人の人間と出会い、体ではなく、
心が震えることになる。
女が過ごしたその時間は、激しく優しい、春だった。